目の見えない方を父がダイビングガイドしたことが、本格的に障がいを持つ方のダイビング受け入れをするきっかけとなりました
僕が子供の頃、父がオーナーとしてマリンハウスおきなわを運営していました。当時は慶良間もまだ有名ではなくて、ショップも沖縄本島南部の久高島でダイビングをしていました。
僕も小さい時から久高島の海に潜っていましたが、体力がなくて、初めてタンクを背負えたのは小学校5年生の時でした。昔はビーチダイビングが主流で、タンクが背負えるようになるまではスキンダイビングで父やお客様に付いていっていました。
あるとき、旅行会社から「目の見えない方が3名、ダイビングをしたいらしいので、ぜひ受け入れてくれないか」と、父に声をかけてきました。それは父にとってもやはり相当プレッシャーだったようです。しかし、案内を受けたお客様から、「目が見えなくてもダイビングを楽しみました」という声を聞いたことが、ショップで本格的に障がいを持つ方の受け入れをスタートするきっかけとなりました。
シニアや障がいのある方の受け入れに関して、マリンハウスおきなわにしかできないことをしています
当時、障がいのある方がダイビングをすることに対して、偏見の目がありました。さらにインストラクターの保険の問題も同時に存在していました。ここ20年でインストラクターの保険もだいぶ確立されてきて、ある程度の障がいであれば対応が可能になってきています。しかし、保険の規定以上のリスクに対しては対応ができません。
そのため、規定以上のリスクに対して対応ができるということは、我々マリンハウスおきなわにしかできないことをしている、という自負があります。
沖縄の海の透明度は海外と比較しても群を抜いていますし、個々のレベルに合わせたダイビングポイントを無数に楽しめます
ショップではお客様から事前に伺っているリクエストと、その日の海況、潮の流れや風の強さを見て、最適なダイビングポイントに向かいます。慶良間だけではなく、チービシやルカン礁などの本島周辺も狙っていきます。お客様はリピーターさんが多いので、毎回同じポイントでは面白くないですよね。
また、お客様が一人だけでも船を出せることがメリットです。沖縄の海は、近くても遠くても楽しめるポイントが無数にあるので、シニアの方でも、障がいを持っていても、個々のレベルや好みに合わせたダイビングスタイルを追求できるところが魅力です。
毎年、冬になるとパラオやフィリピン、モルディブなど海外の海に潜りに行きますが、それらと比較しても、沖縄の海は、透明度に関して確実に群を抜いて、1番です。何十年か前に、沖縄ではオニヒトデの被害がありましたが、その当時とは比べ物にならないくらい、サンゴも綺麗に復活しています。
自分の中で「障がい」に対しての考え方が変わっていきました
23年前に父が「日本バリアフリーダイビング協会」を立ち上げたとき、正直なぜやるのか、最初は意図がわかりませんでした。
僕自身も、お客様として相手することに、始めは、やはり抵抗がありました。何に抵抗があったかというと、自分でもダインビングをするのがやっとなのに、なぜ危険を冒してまで障がいを持つ方をダイビングに連れていかなくてはいけないのだと。
でも、障がいを持つ方とのダイビングを回数を重ねていくうちに、「障がい」というのは言葉だけで、話せる人も話せない人も、コミュニケーションのあり方次第だということを感じました。自分の中で「障がい」に対しての考え方が変わっていったのです。
リスクが高いダイビングをすることに色々意見もいただきましたが、乗り越えられたのはやはりダイビングが楽しいからです
シニアや障がいを持つ方の受け入れを20年以上してきて、やはり色々な意見がありました。
一番堪えたことは、既存のお客様が離れていったことです。ショップとしては、どんなお客様でも分け隔てなくダイビングを楽しんでほしい。レベルによって、ダイビングポイントを変えることもできる。健常者の方と同じように一緒に潜れないのであれば、しっかりと説明して理解してもらう。それでも、離れていく方はいます。
だけど、健常者の方も年を重ねるとタンクが持てなくなったり、目が悪くなります。これって、障がいと一緒です。既存のお客様の中でも、障がいを持つ方は約50〜60名います。また、リピーターさんとは20年以上の付き合いがあるので、みなさん既に高齢です。色々なことがありましたがそれを乗り越えて、今でも受け入れを続けられているのは、単純にその時間が楽しいからです。
シニアや障がいを持つ方の受け入れを長年続けられるのは「予測不可能な状態をつくらない」ことを心がけているからです
20年以上、シニアの方や、障がいを持つ方をショップで受け入れて、ダイビングを楽しんでもらうにあたって、「危険が察知できないような、予測不可能な状態をつくらない」ということを心がけています。レベルに合わないダイビングスポットや、寝不足など体調管理が不十分な状態は「予測ができる危険」なので、回避できますよね。
また、初めてマリンハウスを利用する場合、シニアの方と障がいを持つ方は特に、免責と医師の診断書を受け取ります。それはその方に対し、どのようなダイビング手法を取るかということを判断するためです。シニアの方であればどれくらいの体力があるのか、障がいを持つ方であればどのような障がいを持っているのかを見るためです。
四肢麻痺の少年が5年かけて潜れるようになった時、「怖さ」が「楽しさ」に変わりました
四肢麻痺の方が、京都から毎年沖縄にダイビングにきてくださっており、海外も毎年一緒に行きます。
彼は電動車椅子で移動しており、さらに話すことができないので、少し動く指でパッドを操作し、意思疎通をはかります。彼と出会ったのが、僕が20代の半ばくらいの時なので、15年以上の付き合いになります。マウスピースが噛めないので、顔全体を覆うマスクをして、耳抜きも僕が頭を抑えて、鼻を摘まんであげるんですよ。OKサインができないので、目と、顔が少し縦に振ってもらって合図をとっています。
ダイビング始めたての頃、マンツーマンでずっと一緒にダイビングをしていたのですが、ずっと、潜らせてあげることができませんでした。正直、僕も、一緒に潜るのが怖かった。それに、彼が咳き込むことが癖になってしまっていて、一度ハワイでのダイビング中に、水を大量に飲んでしまった。彼は、それが恐怖になってなかなか潜ることができなくなってしまったのかもしれません。それでも根気よくダイビングに来てくれていました。海に入る前にかなりの時間をかけてディスカッションして、挑戦を続けました。
そして、ダイビングを始めてから5年目が経ったある日、すっと、自然と潜れる様になったんです。きっかけは彼にしかわかりません。その瞬間、必死だったので感じなかったのですが、後から「あれ、彼、潜れているじゃない」と気づいたときに、一緒に潜るのが怖かったはずだったのに、「楽しい」に変わっていました。
「障がいがあるから、ダイビングができない」と思うのではなく、まずはマリンハウスおきなわに相談してください
ダイビングというのは、海に深く潜ることだとみなさん思っているかもしれませんが、僕はそうではないと思っています。
ダイビングをする格好をして、タンクを背負って、海にゆっくりと入る。1mの深さでも良いんです、タンクの空気を吸ってもらう。その時、「これがダイビングだ」というのを味わっていただけたら、よし、と思っています。
今、シニアや障がいを持つ方へのダイビング情報の発信を対応しているメディアが、徐々に無くなってきており、伝達方法が少なくなっています。その結果、必要な人に情報が届かないという現状があります。「高齢だから、障がいがあるから、ダイビングができない」と思うのではなく、まずはご相談ください。我々ができる限りの海でのサポートをさせていただきます。
編集後記
私自身、ダイビングを趣味で楽しんでいますが、障がいを持つ方や高齢者の方のダイビングについて、初めて詳しく伺いました。山田さんのお話しを聞き、改めてダイビングは誰もが楽しめるスポーツだということ。でもその裏で、誰もが楽しめるようにダイビングの世界を支えている人たちがいることを知りました。山田さんたちの活動が、少しでも多くのダイバーに届き、ダイビングが色んな人で、盛り上がることに少しでも協力できたらと思います。